グローバルな気候政策の地平は、これまでになく複雑かつ予測不可能になっています。一見すると、欧州連合(EU)の越境炭素調整メカニズム(CBAM)のような強力なツールが、世界中の炭素価格設定の導入を加速させ、気候行動の統一戦線を築いているように見えます。しかし、その一方で、米国のような主要経済圏では、国内政治の逆風が既存の気候政策基盤を揺るがし、法廷闘争がその未来を左右するという、対照的な現実が繰り広げられています。
CBAMは、その導入以来、驚くべき地政学的影響力を発揮しています。その本質は、EUに輸入される炭素集約型製品に、EU ETS(排出量取引制度)価格に相当する炭素関税を課すというものです。しかし、輸出国が独自の炭素価格を設定している場合、そのコストはCBAM関税から控除されます。このメカニズムは、まさに意図された通りに機能しており、輸出国が自国の炭素税収をEUに流出させるのではなく、国内に留めるための強力な財政的インセンティブを生み出しています。Bruegelの分析によれば、2019年のEUによるCBAMプレビュー発表後、世界中で炭素価格設定政策の発表が著しく増加しました。
Bruegelの調査によると、ある国のCBAMへの貿易露出が1パーセンテージポイント増加するごとに、炭素価格設定政策の採用確率が約2%引き上がります。
この効果は、特に高所得国および上位中所得国に集中しており、CBAMが貿易競争力と気候政策のリンケージを通じて、これらの国々の政策収束を強力に推進していることを示しています。CBAMは単なる炭素漏出対策に留まらず、EUの気候政策アーキテクチャを「輸出」する外交的ツールとして機能しているのです。
しかし、この国際的な統一への動きと対照的に、米国では気候政策の安定性が国内の政治的および法的闘争によって深刻な脅威にさらされています。最近、ドナルド・トランプ前政権は、環境保護庁(EPA)が気候汚染を規制することを可能にする長年の政策(2009年のEPAの「危害認定」)を撤廃する動きを見せました。これに対し、40の民主党の州、都市、郡からなる連合が即座に提訴しました。
CNNの報道によれば、米国では40の州、都市、郡が、EPAの気候汚染規制権限の撤廃に異議を唱え提訴しており、連邦レベルでの気候政策の安定性に重大な不確実性をもたらしています。
この訴訟は、Clean Air Actの適用範囲と、過去の「Massachusetts v. EPA」判例の効力を巡るものとなり、連邦政府の気候規制権限の未来を形作る可能性があります。行政による政策撤回とそれに対する即時の法的挑戦というこのメカニズムは、米国の運輸および電力部門における脱炭素化計画やコンプライアンス戦略に対する短期的な政策の不確実性を著しく高めています。
この二つの異なる動きは、グローバルな気候政策の風景における重要な乖離を浮き彫りにします。EUは、貿易という外部からのテコ入れを通じて、積極的な政策推進と国際的な収束を図っています。それに対して米国では、既存の政策を守り、後退を阻止するための国内での防衛戦が展開されています。特に、CBAMが低所得国で炭素価格設定を促す効果が限定的であるという限界は、貿易ペナルティだけでは途上国の制度的・資本的制約を克服できないという、グローバルな移行資金における構造的ギャップも示しています。
投資家は、この断片化された気候政策の地政学を深く理解し、そのリスクを価格に織り込む必要があります。統一されたグローバルな気候変動対策への期待は、主要市場における政策の回復力、特に国内政治の変動や法的リスクに晒されている部分を過小評価している可能性があります。資本配分にあたっては、EUのCBAMのような外部からの強力な政策推進力と、米国の事例が示すような国内政治・法的安定性の脆弱性を明確に区別し、多層的なリスク評価を行うことが不可欠です。この複雑な環境において、政策の耐久性と実行可能性を正確に評価することが、持続可能な投資戦略の鍵となるでしょう。